わが家の災害対策ノート

災害時通信のレジリエンス設計:複数の通信手段を組み合わせる戦略

Tags: 防災, 通信, レジリエンス, 技術, 備え, 災害対策, アマチュア無線, 衛星電話, トランシーバー

はじめに:災害時における通信の生命線としての役割

災害発生時、安否確認、情報収集、救助要請、そして家族や地域との連携において、通信手段は生命線となります。しかし、大規模災害では、携帯電話ネットワークの輻輳や基地局の損壊、固定電話回線の断絶など、既存の通信インフラが機能停止するリスクが高まります。単一の通信手段に依存することは、災害時の孤立を招きかねません。

本記事では、このような状況下でも通信を確保し、情報へのアクセスを維持するための「レジリエンス設計」という考え方をご紹介します。これは、ITシステムにおける信頼性向上と同様に、複数の異なる技術や媒体を用いた通信手段を組み合わせることで、単一障害点(SPOF: Single Point of Failure)を回避し、通信の途絶リスクを低減するアプローチです。エンジニアリング的な視点から、様々な通信手段の技術的な特徴を理解し、ご自身の環境やニーズに合わせた最適な組み合わせを検討するための情報を提供いたします。

災害時に既存通信インフラが脆弱になる理由

災害発生時、特に地震や台風などの大規模な自然災害では、以下の要因により既存の通信インフラが脆弱化します。

これらのリスクを踏まえ、既存インフラに依存しない、あるいは既存インフラが停止しても機能する代替通信手段を事前に準備しておくことが極めて重要となります。

代替・補完となる様々な通信手段とその技術的特徴

複数の通信手段を組み合わせるためには、それぞれの技術的な特徴、メリット、デメリットを理解する必要があります。

1. 携帯電話・スマートフォン関連

技術的ポイント: これらのサービスの多くは、携帯電話網またはインターネット回線に依存します。基盤となるインフラが機能している限り有効ですが、そのインフラが停止すると利用できません。

2. アナログ・無線通信

技術的ポイント: 携帯電話網やインターネットに依存しない独立した通信手段です。障害に強い反面、通信相手が同じ手段を持っていること、事前の周波数合わせや運用の習熟が必要です。

3. 衛星通信

技術的ポイント: 地上のインフラに依存しないため、広域災害や孤立地域での通信手段として極めて有効です。ただし、機器の導入・運用コスト、設置場所の確保(空が開けている場所)、電源確保が課題となります。

4. その他

技術的ポイント: 新しい技術ですが、現状では特定の条件下や限定的な用途での利用に限られることが多いです。

通信手段のレジリエンス設計:組み合わせの戦略

これらの多様な通信手段を踏まえ、災害時通信のレジリエンスを高めるには、以下の観点から複数の手段を組み合わせることが有効です。

  1. 依存性の分散: 携帯電話網、固定電話網、インターネット、無線、衛星など、異なる基盤技術に依存する手段を組み合わせます。これにより、特定のインフラが機能停止しても、他の手段で補うことが可能になります。
  2. 通信範囲と目的の多様化:
    • 家族内・近隣連絡: 特定小電力トランシーバー、近距離無線アプリ。
    • 安否確認・情報収集(外部): 災害用伝言ダイヤル/ウェブ、SNS、衛星通信、ラジオ。
    • 救助要請: 携帯電話(可能な場合)、衛星電話、アマチュア無線(協力体制がある場合)。
  3. 電源の確保: 各種通信機器のバッテリー持続時間を確認し、モバイルバッテリー、ポータブル電源、乾電池、手回し充電器、ソーラー充電器など、複数の方法で電源を確保します。
  4. コストと実現性のバランス: 全ての手段を完璧に揃えることは難しい場合が多いため、予算、家族構成、居住地域の災害リスク、技術的なスキルレベルなどを考慮し、現実的な組み合わせを検討します。

具体的な組み合わせ例

組み合わせた通信手段を「使いこなす」ために

通信手段を備えるだけでなく、実際に使いこなせるようにしておくことが重要です。

結論:備えとしての通信レジリエンス設計

災害時における通信手段の確保は、現代社会において防災対策の要の一つです。携帯電話やインターネットといった日常の通信インフラは便利である反面、災害時には脆弱性も露呈します。

レジリエンスを高めるためには、単一の技術に依存せず、アナログ無線から衛星通信、各種情報サービスまで、それぞれの特性を理解し、複数の手段を戦略的に組み合わせることが重要です。そして、それらの手段を「備える」だけでなく、家族で「使いこなせる」ようにしておくことが、実際の災害時に通信を確保し、安全を維持するための鍵となります。

この記事で提示した情報を参考に、ご自身の「通信備蓄リスト」を作成し、定期的に見直し、訓練を行うことをお勧めします。体系的なアプローチで、災害時にも孤立しない通信環境を構築していきましょう。